一酸化炭素で学ぶ異核二原子分子の分子軌道 ∣なぜ炭素側が電子豊富になるのか?
一酸化炭素(CO)は三重結合をもつ非常に強い結合分子です。
しかし、いくつか直感に反する性質があります。
- 酸素のほうが電気陰性度は高い
- それなのに炭素側がわずかに負
- COは炭素側から金属に配位する
なぜこのような逆転現象が起きるのでしょうか。
その答えは、
異核二原子分子の分子軌道が非対称になること にあります。
異核二原子分子の分子軌道の基本については、こちらで詳しく解説しています。
本記事では 一酸化炭素(CO) を例に、
- 電子密度の偏り
- 双極子モーメント
- σ供与・π受容性
を分子軌道から読み解きます。
COの逆転現象の正体:C側に偏ったHOMO
COの特徴は非常にシンプルです。
最もエネルギーの高い占有軌道(HOMO)が炭素側に偏っている
この一点が重要な役割を果たします。
- 炭素側が電子豊富になる
- 双極子モーメントが逆転する
- 炭素側から金属に配位する
まずは分子軌道の全体像を見てみましょう。
一酸化炭素(CO)の分子軌道

COは異核二原子分子のため、分子軌道は対称になりません。
同核二原子分子では分子軌道は対称になりますが、異核二原子分子では原子軌道エネルギーの差により非対称になります。
重要な特徴は次の2つです。
- HOMO(5σ)が炭素側に偏る
- LUMO(2π*)も炭素寄与が大きい
COではHOMO(5σ)はほぼ非結合性軌道であり、炭素側に局在します。
このため、炭素側が電子供与性を持ちます。
なぜ非対称な分子軌道になるのか
一酸化炭素の分子軌道の非対称性は、炭素と酸素の原子軌道エネルギーの違いに由来します。
原子軌道のエネルギーは原子核の電荷の違いにより、差が生まれます。そのため、炭素と酸素の原子軌道のエネルギーには差異が生まれます。
- 炭素の原子軌道:高エネルギー
- 酸素の原子軌道:低エネルギー
HOMO(5σ)の形成
一酸化炭素のHOMO(5σ)は、主に炭素と酸素の2p軌道の相互作用から形成されます。
しかしCOでは、それに加えて炭素の2s軌道との軌道混合が重要になります。
分子軌道を形成する際、原子軌道同士のエネルギーが近いほど強く相互作用します。
炭素では2s軌道と2p軌道のエネルギー差が比較的小さいため、σ対称の分子軌道同士の混成が起こります。
この混成により、5σ軌道は炭素側の寄与が大きくなり、HOMOが炭素側に局在します。
その結果、電子密度が炭素側に偏ることになります。

双極子モーメントが逆転する理由
電気陰性度だけを考えると
O(δ−) — C(δ+)
になりそうですが、実際は
C(δ−) — O(δ+)
となります。
これは、内側の結合性軌道では酸素側に電子が多いものの、HOMOが炭素側に偏るためです。
外側の電子分布の影響により、
全体としてわずかに炭素側が負になります。
炭素側から配位する理由
COが金属に配位する際も、HOMOが重要です。
炭素側のHOMOは孤立電子対様の軌道であり、金属へ電子供与が可能です。
さらに、LUMO(π*)も炭素寄与が大きいため、
σ供与とπ逆供与の両方が成立します。
- CO → 金属:σ供与(HOMO)
- 金属 → CO:π逆供与(LUMO)

この双方向相互作用により、COは強い配位子となります。
一酸化炭素(CO)の物理的性質の整理
ここまでの議論をまとめましょう。
(1) 結合次数は3(非常に強い結合)
結合性σ・π軌道が満たされ、反結合性π*軌道が空であるため、結合次数は3となります。
(2) 双極子モーメントは小さく逆向き
内側の結合性軌道では酸素側に電子が偏りますが、最も外側の占有軌道(HOMO)が炭素側に局在しています。
この高エネルギー電子の寄与が双極子モーメントに強く影響するため、全体として炭素側がわずかに負になります。
一酸化炭素の分極
C(δ−) — O(δ+)
(3) 炭素側が配位する
炭素原子上にHOMOが存在するため、電子供与に関与します。
まとめ
異核二原子分子において
- 分子軌道は非対称になる
- 異なる原子軌道のエネルギー差により、電子密度の偏りを生む
一酸化炭素(CO)では
- HOMOが炭素側に局在する
➢そのため炭素側が電子豊富になる - 双極子モーメントも逆転する
- 炭素側から金属に配位する
COの性質はHOMOとLUMOの非対称性から統一的に説明できます。




