芳香族の置換反応では、同じベンゼン環でも置換基が変わると反応の進みやすさや生成物の置換位置が大きく変わります。
たとえば、
この違いは、置換基が芳香環の電子状態を変える 置換基効果 によって説明できます。
芳香族化合物では置換基効果が、
として現れます。
この記事では、芳香族の置換基効果を以下の流れで整理します。
個別テーマはそれぞれの記事で詳しく解説しています。
置換基効果とは、置換基が電子を押し出したり引き寄せたりすることで、分子全体の反応性を変える作用です。
芳香族では特に、置換基効果によって 反応速度 と 置換位置 が変化します。
置換基効果は主に誘起効果・共鳴効果・超共役 により引き起こされます。
誘起効果とは、σ結合を通じて電子が偏る効果です。
共鳴効果とは、π共役を通じて電子を供与・吸引する効果です。
芳香族の配向性では、共鳴効果が特に重要になります。
超共役とは、隣接するσ結合の電子が非局在化して、分子の安定化に寄与する効果です。
トルエンなどアルキル置換ベンゼンの活性化要因でもあります。
芳香族求電子置換(SEAr)では、芳香環が求電子種 (E+)の攻撃を受け、水素との置換反応が起こります。
電子供与基は芳香環の電子密度を高めるため、求電子攻撃を受けやすくします。
アルキル基では 超共役 による安定化に加え、誘起効果による電子供与も寄与します。
これらは芳香環の電子密度を下げるため、求電子攻撃を受けにくくします。
SEArでは、一時的に芳香族性を失った σ錯体(アレニウムイオン) を中間体として経由します。
置換基はこの中間体の安定性を変えることで、生成物の置換位置(=配向性)を決定します。
オルト/パラ位へ攻撃したときに生じるσ錯体が共鳴安定化されるため、o,p-体が主生成物になります。
アルキル基では超共役によりσ錯体の正電荷が安定化され、o,p-配向を示します。
オルト/パラ攻撃では、電子求引基の隣接位置に正電荷が現れるため不安定になります。
そのため、メタ位への攻撃が相対的に有利になります。
ただし、ハロゲンは電子求引基ですが、配向性に関しては例外的に、オルト/パラ配向性になります。
F, Cl, Br, I は一般的な例外として扱われます。
ハロゲン化ベンゼンでは、
その結果、
となります。
芳香族求核置換(SNAr)では、求核剤 (Nu−)が芳香環へ攻撃し、脱離基 (X−)と置換が起こります。
SNArでは、電子求引基の置換により促進されます。
ベンゼン環は基本的に電子豊富な化学種のため、電子求引基でベンゼン環を電子不足にしてやる必要があります。
典型的には、ニトロ基 (−NO2)やシアノ基 (−CN)に置換された芳香族はSNArに活性になります。
SNArは、Nu−とX−の置換反応です。
そのため、脱離基が付いている位置でしか反応できないため、基本的に配向性を考える必要ありません。
| 分類 | 置換基 | SEAr反応性 | SEAr配向性 | SNAr反応性 |
|---|---|---|---|---|
| 電子供与基 | ヒドロキシ基 (−OH) | ◎ | o,p | × |
| アルコキシ基 (−OR) | ◎ | o,p | × | |
| アミノ基 (−NH₂) | ◎ | o,p | × | |
| アルキル基 (−R) | ○ | o,p | × | |
| ハロゲン | −F, −Cl, −Br, −I | △ | o,p | ○ |
| 電子求引基 | ニトロ基 (−NO₂) | × | m | ◎ |
| シアノ基 (−CN) | × | m | ◎ | |
| ホルミル基 (−CHO) | × | m | ||
| カルボキシ基 (−COOH) | × | m | ||
| スルホ基 (−SO₃H) | × | m |
◎:強く促進
○:促進
△:やや抑制または弱い活性化
×:抑制
※ SNArでは、電子求引基が脱離基に対してオルト位またはパラ位に存在すると特に反応が促進されます。
SEArでは、正電荷をもつ中間体(σ錯体)を安定化する 電子供与基 が有利です。
一方、SNArでは、負電荷をもつ中間体 (Meisenheimer錯体)を安定化する 電子求引基 が有利になります。
つまり、どの中間体を安定化するか によって置換基効果は変わります。
各テーマの詳細は、個別記事で整理しています。
置換基効果とは?|電子供与基・電子求引基を誘起効果・共鳴・超共役から理解する - まなびのいずみ |
SEAr反応とは?∣芳香族求電子置換の反応機構・配向性・代表例をまとめて理解 - まなびのいずみ |
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