同じ骨格の分子でも、置換基が変わるだけで反応性や安定性は大きく変化します。
このような違いを説明する考え方が 置換基効果 です。
置換基効果は、有機化学の反応性を理解するうえで非常に重要な基礎概念です。
置換基効果とは、分子中の置換基が電子的・立体的な影響を与え、他部位の性質や反応性を変える作用です。
その結果、次のような性質が変化します。
言い換えると、置換基が分子全体のエネルギーを変えることで、反応挙動が変化する現象 といえます。
置換基効果は、一般には電子効果を指すことが多いですが、立体効果も重要です。
主に 誘起効果・共鳴効果・超共役・立体効果 に分けられます。
誘起効果は、σ結合を通じて電子を引いたり押したりする効果です。
電気陰性度の差によって生じます。
共鳴効果は、π共役を通じて電子を供与・吸引する効果です。
芳香族化合物では特に重要です。
超共役は、隣接するσ結合の電子が非局在化し、分子を安定化する効果です。
置換基の大きさによって、反応しにくくなる効果です。
不安定な化合物には、立体障害が大きい置換基により活性点を保護することで初めて単離できるものが多く存在します。
代表例は、シクロブタジエンです。
シクロブタジエンは反芳香族性をしめす不安定な分子ですが、t-ブチル基により置換することで単離されています。
置換基は大きく 電子供与基(EDG) と 電子求引基(EWG) に分けられます。
なお、1つの置換基が複数の効果を持つことも少なくありません。
例えばヒドロキシ基(−OH)は誘起効果では電子求引性を示しますが、共鳴効果による電子供与性の方が強いため、芳香環に対しては電子供与基として振る舞います。
| 分類 | 代表例 | 主因 |
|---|---|---|
| 電子供与基 | ヒドロキシ基(−OH) | 共鳴 誘起効果(−I) |
| アミノ基(−NH₂) | 共鳴 誘起効果(−I) | |
| アルコキシ基(−OR) | 共鳴 誘起効果(−I) | |
| アルキル基(−R) | 超共役 誘起効果(+I) | |
| 電子求引基 | ニトロ基 (−NO₂) | 共鳴 誘起効果(−I) |
| シアノ基 (−CN) | 共鳴 誘起効果(−I) | |
| ホルミル基 (−CHO) | 共鳴 誘起効果(−I) | |
| カルボキシ基 (−COOH) | 共鳴 誘起効果(−I) | |
| トリフルオロメチル基 (−CF₃) | 誘起効果(−I) |
SEAr反応やSNAr反応では、置換基効果により配向性や反応速度がかわります。
たとえば、
SEArにおいて、
電子供与基:オルト/パラ配向, 反応促進
電子求引基:メタ配向, 反応抑制
の傾向が見られます。
SNArにおいて
電子供与基:反応抑制
電子求引基:反応促進
の傾向が見られます。
芳香族の配向性と反応性|SEAr・SNArにおける置換基効果についてまとめて解説 - まなびのいずみ |
中間体の安定性における置換基効果は、中間体の種類により異なります。
カルボカチオン:電子供与基で安定化
カルボアニオン:電子吸引基で安定化
ラジカル:共鳴や超共役によって安定化
なぜこのような違いが出るかは、個別記事で解説しています。
カルボカチオンとは?|安定性の順序とその理由を解説 - まなびのいずみ |
カルボアニオンとは?|安定性の順序とその理由を解説 - まなびのいずみ |
ラジカルとは?|安定性と反応性をわかりやすく解説 - まなびのいずみ |
置換基効果は、酸性度・塩基性度に影響を与えます。
この酸性度・塩基性度の変化はpKaの変化として現れます。
一般に、
電子供与基:塩基性度を強める
電子吸引基:酸性度を強める
という傾向があります。
pKaの変化については、こちらの記事で解説しています。
酸・塩基の強さの尺度∣pKaとは?小さいほど強い理由と決まり方を解説 - まなびのいずみ |
置換基効果を考えるときは、反応中や共役塩基・共役酸中にどのような電荷が現れるかを確認すると整理しやすくなります。
カルボカチオンなどの正電荷が現れる場合は、電子供与基が安定化に働きます。
カルボアニオンや共役塩基などの負電荷が現れる場合は、電子求引基が安定化に働きます。
π共役が存在する場合は、共鳴効果が大きく働きます。
特に芳香族化合物では、誘起効果より共鳴効果が支配的になることも少なくありません。
反応点の周囲が立体的に混み合っている場合は、立体効果を考えます。
例えばSN2反応では、かさ高い置換基によって求核剤が近づきにくくなり、反応速度が低下します。
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