一酸化炭素(CO)は三重結合をもつ非常に強い結合分子です。
しかし、いくつか直感に反する性質があります。
なぜこのような逆転現象が起きるのでしょうか。
その答えは、
異核二原子分子の分子軌道が非対称になること にあります。
異核二原子分子の分子軌道の基本については、こちらで詳しく解説しています。
異核二原子分子の分子軌道入門|CO・HFで理解 - まなびのいずみ |
本記事では 一酸化炭素(CO) を例に、
を分子軌道から読み解きます。
分子軌道法(MO法)入門|結合性軌道・反結合性軌道をわかりやすく解説! - まなびのいずみ |
COの特徴は非常にシンプルです。
最もエネルギーの高い占有軌道(HOMO)が炭素側に偏っている
この一点が重要な役割を果たします。
まずは分子軌道の全体像を見てみましょう。
HOMOとLUMO|分子の反応性・色・安定性を読み解く - まなびのいずみ |
COは異核二原子分子のため、分子軌道は対称になりません。
同核二原子分子では分子軌道は対称になりますが、異核二原子分子では原子軌道エネルギーの差により非対称になります。
第2周期同核二原子分子の分子軌道|N₂・O₂・F₂を図でわかりやすく解説 - まなびのいずみ |
重要な特徴は次の2つです。
COではHOMO(5σ)はほぼ非結合性軌道であり、炭素側に局在します。
このため、炭素側が電子供与性を持ちます。
一酸化炭素の分子軌道の非対称性は、炭素と酸素の原子軌道エネルギーの違いに由来します。
原子軌道のエネルギーは原子核の電荷の違いにより、差が生まれます。そのため、炭素と酸素の原子軌道のエネルギーには差異が生まれます。
一酸化炭素のHOMO(5σ)は、主に炭素と酸素の2p軌道の相互作用から形成されます。
しかしCOでは、それに加えて炭素の2s軌道との軌道混合が重要になります。
分子軌道を形成する際、原子軌道同士のエネルギーが近いほど強く相互作用します。
炭素では2s軌道と2p軌道のエネルギー差が比較的小さいため、σ対称の分子軌道同士の混成が起こります。
この混成により、5σ軌道は炭素側の寄与が大きくなり、HOMOが炭素側に局在します。
その結果、電子密度が炭素側に偏ることになります。
電気陰性度だけを考えると
O(δ−) — C(δ+)
になりそうですが、実際は
C(δ−) — O(δ+)
となります。
これは、内側の結合性軌道では酸素側に電子が多いものの、HOMOが炭素側に偏るためです。
外側の電子分布の影響により、
全体としてわずかに炭素側が負になります。
COが金属に配位する際も、HOMOが重要です。
炭素側のHOMOは孤立電子対様の軌道であり、金属へ電子供与が可能です。
さらに、LUMO(π*)も炭素寄与が大きいため、
σ供与とπ逆供与の両方が成立します。
この双方向相互作用により、COは強い配位子となります。
供与と逆供与|金属–配位子結合とCO錯体をMOで理解 - まなびのいずみ |
ここまでの議論をまとめましょう。
結合性σ・π軌道が満たされ、反結合性π*軌道が空であるため、結合次数は3となります。
内側の結合性軌道では酸素側に電子が偏りますが、最も外側の占有軌道(HOMO)が炭素側に局在しています。
この高エネルギー電子の寄与が双極子モーメントに強く影響するため、全体として炭素側がわずかに負になります。
一酸化炭素の分極
C(δ−) — O(δ+)
炭素原子上にHOMOが存在するため、電子供与に関与します。
異核二原子分子において
一酸化炭素(CO)では
COの性質はHOMOとLUMOの非対称性から統一的に説明できます。
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