共鳴安定化効果や芳香族性を「理論的な数値」で評価したいときに使われる代表的な指標が、共鳴エネルギー(Resonance Energy, RE) です。
共鳴エネルギー(RE)は、
をエネルギーの観点から評価できる指標です。
共鳴エネルギー(RE)の指標には、さまざまなものがありますが、なかでもヒュッケル共鳴エネルギー(HRE)に関して紹介します。
本記事では、
を中心に整理します。
ヒュッケル法による共鳴安定化の定量指標
芳香族分子では、共鳴安定化に加えて環状共役による安定化が得られます。
この安定化効果を評価するために、共鳴エネルギーを見積ります。
ヒュッケル法によって見積もった共鳴エネルギーのことをヒュッケル共鳴エネルギー(Hückel Resonance Energy, HRE) と呼んでいます。
ヒュッケル共鳴エネルギーの定義
Eall :共役系の全電子エネルギー
N:π電子数
α:クーロン積分
β:共鳴積分
局在化した二重結合の集合を基準エネルギーとし、そこからの安定化分をHREとして定義します。
ヒュッケル共鳴エネルギーの基本的な考え方は、
というものです。
Eallはヒュッケル分子軌道法によって求めます。
ヒュッケル法は下記の記事で解説していますので、興味があれば確認してみてください。
ヒュッケル分子軌道法ってなに?|考え方と解き方をやさしく解説 - まなびのいずみ |
ベンゼンと1,3,5-ヘキサトリエンを比較すると、 環状共役による追加安定化を明確に確認できます。
ここでヘキサトリエンを参照にする理由は、
「同じ6π電子系で、環状でない共役分子」だから
です。
つまり、
という違いがあります。
この2つを比較することで、
環状構造そのものがもたらす安定化
を評価できます。
1,3,5-ヘキサトリエンではHREはβですが、
ベンゼンではHREが2βとなります。
つまり、
ベンゼンは「β分だけ余分に安定化」している
ことになります。
この余分な安定化こそが、
環状共役による芳香族安定化です。
この結果を見ると、「環状共役にすれば常に安定化する」ように見えます。
しかし、実際にはそう単純ではありません。
環状共役による安定化は、
特定の条件を満たした場合にのみ発現します。
その条件を与えるのが
ヒュッケル則です。
ヒュッケル則に従う場合にのみ、
環状共役系は芳香族となり、
顕著な安定化が得られます。
逆に条件を満たさない場合、
安定化どころか不安定化することもあります。
なぜこの条件で安定化が決まるのかは、
ヒュッケル則の記事で詳しく解説しています。
ヒュッケル則てなに?∣芳香族と反芳香族の判別方法についてざっくり解説! - まなびのいずみ |
芳香族性は一般に、次の3つの観点から特徴づけられます。
HREはこのうち、
「熱的安定化」に基づく指標
に対応します。
NICSで見る芳香族性の評価 - まなびのいずみ |
HOMAで見る芳香族性と結合交替の関係 - まなびのいずみ |
本来、共鳴エネルギー(RE)を厳密に求めるには、
などが必要になり、計算負荷が大きくなります。
一方HREは、
ヒュッケル分子軌道法に基づき、手計算レベルで見積もれる共鳴エネルギー
という点が最大の強みです。
つまりHREは、
という実用的メリットを持ちます。
「簡易だが理論的根拠のある安定化指標」
という立ち位置がHREの価値です。
HREはヒュッケル法に基づく値です。
といった制約があります。
また、
芳香族性=安定化だけで決まるわけではない
点も重要です。
実際には、
を総合して判断します。
そのためHREは、
芳香族性の入口や比較指標として使うのが最適
です。
理論理解や傾向比較には非常に有用ですが、
最終的な芳香族性判定は他指標との併用が前提になります。
ヒュッケル共鳴エネルギー(HRE)は、
有用な理論指標です。
一方で、
点に注意が必要です。
HREは、
共鳴安定化効果や芳香族性を理解するための理論的ものさし
として使うと最も有効です。