供与と逆供与|金属–配位子結合とCO錯体をMOで理解
金属錯体の結合は、単なる配位結合では説明しきれません。
特に CO やアルケンの錯体では、金属から配位子へ電子が戻る現象(逆供与) が重要になります。
例えば、
- なぜCOは炭素側で結合するのか
- なぜC–O結合が弱くなるのか
- なぜ低酸化数金属ほど安定な錯体を作るのか
といった現象です。
これらを理解する鍵が、
供与(σ供与)と逆供与(バックドネーション)
です。
この記事では、分子軌道(MO)の視点から直感的に解説します。
分子軌道の基礎については「分子軌道法(MO法)入門」で解説しています。
供与(σ供与)とは
供与(σ供与)
配位子から金属へ電子が与えられる相互作用
供与において、配位子の電子が金属の空軌道に供与されます。
これは孤立電子対だけでなく、結合電子が関与する場合もあります。
代表的な配位子
- NH₃
- H₂O
- CO
- エチレン
供与の電子的な効果
供与において
配位子(HOMO) → 金属(空軌道)
という電子の流れで結合形成がなされます。

逆供与(バックドネーション)とは
逆供与(バックドネーション)
金属 → 配位子へ電子が戻る相互作用
逆供与において、金属のd軌道にある電子が、配位子の空のπ*軌道に流れ込みます。
逆供与はバックドネーションとも呼ばれます。
逆供与の電子的な効果
逆供与においては
金属(d軌道) → 配位子(π*)
という電子の流れで相互作用が起きます。

供与と逆供与は同時に起こる
供与と逆供与は独立ではなく、同時に起こります。
流れとしては
- 配位子が電子を供与(σ供与)
- 金属が電子豊富になる
- 金属が電子を逆供与(逆供与)
σ供与により金属の電子密度が増えると、金属d軌道のエネルギーが上昇します。
その結果、配位子のπ*軌道とのエネルギー差が小さくなり、逆供与が起こりやすくなります。
つまりσ供与と逆供与の相乗効果が働きます。
σ供与と逆供与の相乗効果
σ供与が強い
→ 金属が電子豊富
→ 逆供与が強くなる
典型例:CO錯体で理解する
一酸化炭素(CO)は供与と逆供与の最も代表的な例です。
σ供与
炭素の孤立電子対
→ 金属へ供与
逆供与
金属d軌道の電子
→ COのπ*軌道へ逆供与
COのπ*軌道は炭素側の軌道係数が大きく、金属d軌道と効率よく重なるため、COは酸素ではなく炭素側で金属に配位します。
結果として
- 金属–C結合:強くなる
- C–O結合:弱くなる
という特徴が生まれます。

なぜC–O結合が弱くなるのか
金属にCOが配位するとC−O間の結合が弱くことが知られていますが、これはなぜなのでしょうか?
COのπ*軌道はC-O結合の反結合性軌道です。
そのため、この軌道に電子が入るとC–O間の結合を弱めることになります。
金属へのCOの配位により
- C−O結合距離:伸びる
- C−OのIR振動数:低下する
ことが実験的に知られています。
これらの実験結果は、逆供与によってC–O反結合性軌道に電子が入り、C–O結合が弱くなることで説明されます。
結合性軌道・反結合性軌道の基礎は下記の記事で解説しています。
逆供与を受けやすい配位子(πアクセプター)
πアクセプター配位子とは逆供与を受けやすい配位子のことを指します。
π*軌道が低エネルギーな配位子ほど逆供与を受けやすく、πアクセプターとしてはたらきます。
代表例
- CO
- CN⁻
- NO⁺
- アルケン
- アルキン
逆供与しやすい金属
低酸化数金属ではd軌道の電子が多く、かつ軌道エネルギーも高いため、π*軌道への逆供与が強くなります。
逆供与しやすい条件
- 低酸化数
- d電子が多い
- 後周期金属
- πアクセプター配位子が存在する
代表例
- Fe(0)
- Ni(0)
- Cr(0)
逆に高酸化数金属では逆供与は弱くなります。
まとめ
- σ供与:配位子 → 金属
- π逆供与:金属 → 配位子
- 同時に起こる
- 相乗効果がある
- COが典型例
- 結合強さ・IRに影響
供与と逆供与を理解すると、
- 金属錯体の結合
- 有機金属化学
- 触媒反応
が一気に見えるようになります。

